抱負

2006/04/20

16日。

揃えた資材を使って、いよいよ壁と天井の仕上げに入ります。壁と天井は漆喰で塗ります。
ふつうは漆喰というのは素人の手に負えるような素材ではないそうなのですが、漆喰を加工した「うま〜くヌレーる」という商品があって、面倒な水練りなどが不要、土いじり感覚で簡単にプロ並みの仕上がりが!ということなのでそれを採用することにしました。で、14日のジョイ本でも塗る用のコテなどとともに「うま〜くヌレーる」を買ってきたのです。

ところが、いざ作業に入ろうと施工法をネットで確認していると、いきなり問題発生!
なんと、買ってきたのは23キロだったのですが、それでは17uの部屋の内装にはとうてい足りないのです!!
実はジョイ本の売り場でも、どれだけの量の漆喰が必要なのかちょっと悩んでいました。事前に調べたメーカーのサイトで「床面積がこれくらいなら使用量はこれくらい」という使用量目安表があったのですが、それをメモっておくのを忘れていたのです。そこでそのときは売り場から携帯でメーカーに電話をして、17uの部屋だとどれくらいの量が必要かを問い合わせました。すると「17uなら18キロとあと少しですね」との回答でした。18キロ缶と5キロ缶があり、そこでそれらを1缶ずつ、計23キロを買ってきていました。
しかし家に帰ってもう一度サイトを確認してみると、「10畳(16.2u)の部屋で床と天井を塗る場合、標準使用量は18キロが3.0缶」とあるではありませんか!16.2uが18キロ×3=54キロ。うちの店は17uですから、買ってきた23キロではとうてい足りません。実は電話で問い合わせをしたときも、もうちょっとたくさん必要だった気がして不安でした。電話の相手には「床面積が17uで、壁も天井を塗って、18キロとちょっとで本当に足りるんですか」と念を押して聞きました。するとやはり「18キロ缶の標準塗り面積が16uなので、それくらいです」と答えました。それを信じて購入したのですが・・・。やはり、18キロで16uというのは単に塗れる面積のことで、床面積が16uの場合の必要量というのは全然別の話だったのです!
・・・と、長々と書いてもしょうがない。メーカーに苦情の電話でもかけてクレーマーになってやろうかとも思ったのですが、そんなことをしてもしょうがない。
腹をくくって、またまた行きましたよ、ホームセンターへ!

都内で「うま〜くヌレーる」を扱っているホームセンターはそう多くありません。その中で一番家から近かった、豊洲にあるビバホームに電車で向かいました。これでホームセンターは今シーズン5軒目ですよ・・・。一秒でも惜しいこの時期に大打撃ですが、とにかくしょうがない。
足りなかった漆喰と、ジョイ本で買いそびれたもろもろを買って、本日のお買い物はこちら。



標準使用量からはまるまる18キロ缶が2つ足りない計算でしたが、念のため少し多めに18キロ缶2つと5キロ缶も1つ。それとカッティングシート等々。漆喰だけでも18×2+5=41キロか、重いな・・・。
レジで会計を済ますと、店員が「お車はどちらですか」。積み込みを手伝ってくれると言います。だけどぼくには車がない。「手で持って帰ります!」と元気よく答えました。ぼくの体重が60キロくらいだから、漆喰を足すと100キロくらい。100キロくらいの体重の人もいるわけだから、大丈夫でしょう!
しかし店員は、「いや、これ一人では無理・・・」と絶句。・・・やっぱりそう思います?実はぼくも、いざ目の前にしてみると、いくらなんでもこれを持って帰るのはキツいかなという気がしていました。「配送サービスとかもありますよ」。いや、今日使うんで、それでも今日持って帰らないといけないんです!
ぼくの悲痛な叫びに、レジの店員は貸出車のサービスがあることを教えてくれました。荷物が多い客には、無料で軽トラを貸してくれるそうです。まさに渡りに船。さっそく教えてもらったとおりにサービスカウンターに行き、貸出車を貸してくださいと訴えました。
「どこまで運びますか」。
えーっと、世田谷区です。
「それだとちょっと・・・貸出は1時間までなんです」。
なんですと!
「ここから世田谷ですと、ちょっと1時間では帰ってこれないと思いますので、お貸しできません」。
な〜に〜!金返せ!!(無料貸出車である。)
ぼくは軽く逆ギレして、「じゃあいいです、とにかく持って帰るんで、これとこれは紙で包んでください!」とプンプンして、カートから18キロ缶を2つ取り出して両手にぶらさげました。軽く、廊下に立たされた小学生です。いや、軽くはない。すごく重いです。顔がゆがみます。
すると、「・・・やっぱりちょっと無理ですね。やめてください、危険です。今回は特別にお貸ししますので、車を使ってください!」。あまりの悲壮なぼくの姿に根負けしたか、サービスカウンターの人が自ら時間延長を申し出ました。助かった・・・。

そうして貸出車をゲットして、軽トラでビバホームを後にします。
・・・しかし!
車で運ぶとは思ってもいなかったので、地図なんて持っていません。ぼくにとって豊洲から地図なしに車で帰るというのは、北海道ではない北の果てにいる空手家という手がかりだけで日本に来るくらい無謀なことです。ビバホームの周りをちょっと走っただけでもうどっちを向いているかわからなくなり、SOSを求めることにしました。
車を持っていて道に詳しそうな底石さんに電話。しかし出ず。続いて160/160さんに電話。しかし出ず。3人目、そんなに道に詳しくなさそうなじゅんに電話してようやくつかまり、「詳しいことは後で」ととりあえず現在地を告げ地図を見てもらい、家までの道順を教えてもらいました。
幸い道路はさほど混んでいませんでした。じゅんは「検索を開始します・・・」と言ったまま30秒黙ってしまうような頼りないカーナビでしたが、なんとか店までたどり着きました。荷物を降ろして2時間少々で無事にビバホームに戻り、また電車で夜8時ごろに帰宅です。

というわけで、作業を始めるまでにもなんと紆余曲折の多いことか!
ようやく、作業開始です。
まずは養生。天井を塗るときには下に漆喰が垂れることが予想されるので、厨房機器や窓などが汚れないように覆いをする必要があります。
そこで登場するのが「コロナマスカー」。



緑の部分がテープ、白い部分がビニールで、筒状になっています。



テープを覆いたい箇所に貼り付けて、下のシートを広げると。



あら便利!あっという間にビニールのカーテンができます。

その他、壁でもコンセントの周りなど漆喰がついてはいけないところは予め紙テープでガードしておきます。それに、これまで乱雑に置いていた機器や資材を片付けないと、じゃまで作業ができないし汚れちゃう。と、下準備をしているだけでもだいぶ時間がかかります。壁を塗るための準備が整ったのは、深夜12時すぎでした。

先は長いぜ・・・。
実は、16日のうちに壁と天井の塗り作業をすべて終了させる予定でした。
で、17日に保健所の検査と厨房の最終設置作業があります。その後タイル貼り。18日は店に入らずにタイルの接着剤を乾かし、19日に目地剤を詰めて床を仕上げ、同時にテーブルを作り、20日にオープン。そういう目論見でした。
しかし肝心の16日はビバホームで消費してしまい、しかも下準備がだいぶ時間がかかり、丸1日の遅れが出ていました。

それを取り戻すべく、疲れた体にムチ打って深夜の漆喰塗りの開始です。



これは塗る前の壁と天井。
まず缶を開け、おたまで漆喰をすくって蓋の上に乗せます。



うま〜くヌレーるは、ペンキよりは粘性があり、粘土ほどは固くなく。ちょうどジェラートのような、トルコ風アイスのような質感です。
これを、コテで壁に薄く塗ります。



壁の下処理ではさんざん苦労しましたが、塗るのはとても簡単です。漆喰はペンキとは違いある程度の厚みをもたせて塗るし、コテの跡を残して仕上げてもカッコいいのでそんなに神経質になる必要はないのです。後で二度塗りもするから、ムラが出ても気にしない。とにかくコテでガーっと取り、ガーっと塗ればいいのです。子どものころ、ウンコを壁に塗りたくる動物園のゴリラに一抹のうらやましさを感じたことはありませんか?漆喰塗りはその爽快さを味わうことができます!
そして白い漆喰をコテに取り壁に塗る・・・その作業はケーキ作りでいうところの「ナッペ」そのもの。スポンジに生クリームを塗るテクニックです。そういうことなら俺様に任せとけ!

・・・と、喜んでいたのも最初の10分くらいですね。
漆喰塗りは、まさに「ワックス塗る、ワックス拭き取る」の動き。空手のトレーニングになるくらいですから(ならないと思うけど)、すぐに肩はパンパンです。細かいところを塗るのも面倒だし・・・。そういえばぼく、製菓苦手じゃんね・・・・。
そしてやはり、天井は上向き地獄。首が〜。しかも天井に塗っていると漆喰はボタボタと落っこちてきます。あっというまにツナギは被弾して白塗りになっていきます。



容赦なく顔にもかかります。目に入ると・・・激痛!漆喰は乾くまでは強アルカリ性で、非常に刺激的なのです。ビニール手袋で手もガードしていますが、指についてしばらくするとあっという間に指がシワシワになります。

ちょうどスノーボードのコーナリングでエッジを利かせるような感じで、コテを壁に走らせます。ザッ、ザッ、と、音もスノボー風です。何千回、何万回とコーナーを切り、それでも斜面全面を滑り尽くすにはまだ足りず。ふと気づくと時計は・・・朝8時!毎日朝までやっていましたが、8時までやったのは初めて。
8時までやってでも壁と天井を仕上げておきたかったのですが、けっきょく半分ほどしか終わらず。

やばい!

***

17日。

といっても朝8時までやっていて、1時間寝ただけ。9時には電話で起こされました。機器の最終設置で厨房屋さんがきました。
すでに機械は全て搬入され所定の位置にありましたが、いちおうコンセントをつないで動作確認してもらいます。そして一度機械をどけて作業台と作業台の間の隙間をパテで埋めたり、コンセントを通すための穴を作業台に開けてもらったり。

それから保健所の人もきました。飲食店の営業許可をもらうための、非常に重要な検査です。
といっても、一般的に営業許可申請というのは図面の段階で事前相談に行き仮のOKをもらっておくもので、実際の検査で行うのは基本的には確認のみ。落とされる類のものではありません。(逆に事前の相談に行かないと保健所がスネてなかなか通してくれないとは聞く。)
ただぼくの場合は、例の「手洗いシンク」を作業台の下に設置するという抜け道的な設計をしていました。そして、できあがった手洗いシンクは案の定非常に使いづらいものでした。使いづらいというか、もともとわかっていたことですが、作業台がジャマで全く使えない。明らかに許可をもらうためだけに設置したのが見え見えです。現物を見て「これじゃ手が洗えないので作り直してください」とか言われたらシャレになりません。
でも、(手洗いシンクは使わないけど)ちゃんと手は洗いますよ!むしろ真空調理機に中心温度計も揃え、HACCP準拠の徹底した衛生管理ですよ!手洗いシンクには「手指の消毒装置」(うちの場合はちゃんとした水石鹸入れをつける金をケチって薬用石鹸ミューズのポンプで代用)を設置する義務があるのですが、必須条件ではない爪ブラシまでついでに備え付けて衛生観念の高さをアピールしてみました。なんなら家にある「絵で見る自主衛生管理マニュアル」という本をそれとなしに置いておいたり、むしろ食品衛生学の100点の答案をそのへんに貼っておこうかと思いました。
とヒヤヒヤしつつも万全の準備(?)で望み、その甲斐あって・・・検査は無事OK!
それどころか営業許可年限「7年」をゲットしました。飲食業の営業許可というのはクレジットカードの限度額のようなもので、審査の結果によって与えられる営業期間が変わってきます。絶対に満たしていないといけない項目のほかにできればクリアしておいてほしい項目というのがあり、それらのうち何項目を満たしているかにより次の更新までの期間に5年から8年の開きが出るのです。8年というのは非常に厳しく、事実上は食品工場や集団給食の厨房といった大規模な施設くらいしかクリアできません。ですからうちの「7年」は一般の飲食店ではいちばんいい成績といえるのです。気合いが通じました。ほっとひと安心です。

が、この日は日中にそういった作業が入っていたため、肝心の壁塗りはちっとも進まず。

***

18日。一日中壁と天井を塗る。しかし終わらず。

***

19日。一日中壁と天井を塗る。天井からポタポタと垂れてくる漆喰を左手のパレットでキャッチしながら塗り進むといった高等テクも身に付き、ようやくコテ扱いが上手になってきたかなと思えてきたころに、ようやく終了。



しかしいざ終わってみると、養生のために塗ったマスキングテープが漆喰でガチガチに固められていて剥がれなかったり。逆にマスキングテープといっしょに下の塗装も剥がれてしまい、せっかく塗ったのにまた塗りなおす必要があったり。最初のうちのヘタな時期に塗ったところは隙間だらけだったり。あちこちで要調整、まだまだ時間がかかりそうです。

***

というわけで、Xデーである20日を迎えた次第ですが・・・。

ぜ ん ぜ ん 終 わ っ て ま せ ん 。

なんでしょうね、「予定は未定」という言葉の意味を今回改めて知りましたね。テレビの収録では時間が押すのがあたりまえのようで、「5時間も待ちなら初めから入り時間遅めにしといてくれよ」ってなことをタレントが言ったりしますが、店作りもまさにそんな感じです。自分で施工する段階になってからはとくにそうです。ちっとも予定通り進みません。
急遽ビバホームに行かないといけなくなったのが象徴するように、予期せぬハプニングが毎日のように発生します。1日で終えるつもりだった壁・天井に3日かかったように、何もかも予想以上に時間がかかります。「思ったより簡単だったなあ」なんてことは、これまで一つもありませんでした。20日に人を入れられる状態にするなんて、とてもじゃないけど無理でした。甘かった。
これから床にタイルを貼っていくのですが、これもやっぱり、思った以上に大変なんだろうなあ。そもそも、本当に自分にできるかどうかすら怪しいもんだ。

20日は誕生日だったわけですが、なんの感慨もなく、汚れたツナギに身を包んでその時を迎えました。
全身は慢性的な筋肉痛。途切れることのない疲労感、めまい。疲れと焦りとプレッシャーでボロボロ。できることなら死んでしまいたい。もしくは殺されたい。記念すべき30歳の誕生日、おめでとうもへったくれもありません。

いつまでかかることやら。いまは、4月中にオープンできればいいかなーくらいに考えています。期日に間に合わないのは組織の仕事じゃ致命傷だけど、一人の仕事はぜんぶ自分の都合しだいだからこりゃいいや、なんて無理やりポジってみたり。
タイル貼りが終わってもメニューのことを考えないといけないし、正直4月すら危ういです。むしろ、トラクターで日本一周の人みたいに、タイルを1日1枚ずつ貼っていって来年の3月1日(michiの日)のオープンを目指してやろうかとさえ思います。

誕生日らしく「30代の抱負を」と問われれば、即答で答えます。
「店をオープンさせること」。
むちゃくちゃ目先のことです。でも、実際に店を開けられる目処すら、ちっとも立っていないというのが現状です。そこから先の10年のことなんて、想像できるはずもありません。

でも、考えてみると。20歳のときも、ぼくは自分の30歳のことなんてちっとも想像がつかなかった。それなりに想像はしたのだろうけど、果たして30歳の自分がたどり着いたのは間違いなくその想像とは全く違うところだった。そして、それはそれでよかったんだといまは思う。
人生なんてそんなもんだ。思いどおりにいくことなんてひとつもない。思ったとおりにいかないときにどう進むか、それこそが人生なんだろう。むしろ道ができるだけ険しいほうが、たどり着いたときの感慨も深いというものだよ。

誕生日に店を開けるという野望はもろくも崩れたけれど、10年たっても「30歳の誕生日は大変だった」と感慨深く振り返れるのは間違いない。これはこれで、有意義な誕生日の過ごし方だったのかもしれない。
そして30歳のぼくがこれからの自分の10年に期待する抱負のようなものがあるとすれば、「40歳のころにも、いまからは想像もつかないことをしていたい」ということだけだ。

というわけで、みなさん申し訳ない。

ワカレミチ、延長ラウンドに突入!

サグラダ・ファミリア

2006/04/25

いやー無理だった。20日にオープンなんてぜんっぜん無理だった。日記でも20日20日と書き続け、それがなんとかなると17日くらいになってもまだ本気で思っていたのがいま思うと恥ずかしい。連続KO記録を狙うと大口叩いておきながら2戦目にして早くもフルラウンド戦ってしまったくらい恥ずかしい。
亀田大毅はその後山ごもりに突入して中2週の3戦目に汚名返上をかけるわけですが、ワタクシも穴ぐらにこもって作業を続けオープンを目指している次第です。2週は空けすぎだから、せめて中10日くらいでオープンさせたいなあ。4月中になんとかなるかなあ。

そんなぼくの最近の生活スケジュール。
朝起きる。
朝といっても必ずしも朝とは限らず。10時だったり、15時だったりすることもある。下手したら夜かも。生活リズムは運次第です。
で、起きてメールチェックなどして、それから店に行き何かしら作業をします。ひと段落ついたら、朝ごはん。朝とは限らないのは以下省略。
ごはんといっても自分で作るわけではない。ちょっと前は自炊自炊で3日に1回スーパーに行くときしか財布を開けないような生活だったのに、最近ではちっとも料理をしません。水出し麦茶を作ることすら面倒です。コンビニに行きます。
昔はコンビニって、立ち寄ることもまれだったんです。定価だし。料理は自分で作ったほうが絶対に安いのです。でも最近は腹が減ったらコンビニ直行です。日常的にコンビニに依存する生活は人生で初めてです。スーパーに買い物にいって料理をするというのは、節約でもメニュー開発でもなんでもなく単なる嗜好、つまり余裕があって初めてできることだったんだなあ。
あとは、このまえやっしーにデザインを依頼していたあるもの(内緒)が完成し、彼女がそれをわざわざ届けにきてくれたのですが、ついでに差し入れでサンマルクカフェのチョコクロワッサンを持ってきてくれたんです。8個くらい。多いよ。おいしいけどさ。で、ぼくはこれ幸いとその日はコンビニにも行かずにそのチョコクロだけを食べて過ごしました。
ましてや店で出すメニューの試作なんて。厨房機器はせっかく揃ったというのに、ビニールがかかったままです。厨房屋さんが、「どうですか実際使ってみて。何か問題があったら調整に行きますよ」と電話をくれました。恥ずかしながら、まだ使ってません。
ろくな食事をしていないので、たぶんだいぶ痩せたと思います。紺屋の白袴というか。俺ぁいったい何屋やねんと。たぶん大工です。


というくらい、いまは大工仕事に専念しています。ペンキ塗りとかはもうお手の物です。テーブルの脚にする木を黒ペンキで塗ったりしているのですが、器に向かう陶芸家のごとく無心でハケを操っています。

そんな専業大工ですが、最近キツかったのが遮光フィルム剥がし。
うちの店は道路側の壁がほとんどガラス窓で覆われています。入口ドアもガラス張りです。外から丸見えなので、前のテナントでは目隠しのために窓の人の目の高さのところに遮光フィルムを貼っていました。ハンズで売っているような、ガラスに貼る半透明のシートです。ぼくが借りたときにもそれが残っていました。
ぼくははなから、この店には窓は不要と思っていました。窓から見える道路は決しておしゃれな通りではなく、人通りより車通りが多いような道で眺めがいいわけではありません。しかも1階の狭い店なので、お客さんからすると数メートル先で人や車が通っているのを見ながら食事をすることになるわけで落ち着きません。はっきり言って逆効果な設計です。ましてやぼくは初め地下か2階以上のテナントを探そうと思っていたくらいで、1階で通りから店内を見せることで客を引こうなんて思ってもいません。設計の段階では、むしろ外に壁を作って店を道路から遮断してやろうとさえ思いました。
それは金がかかるため断念しましたが、とにかくこのまま目の高さのところだけのフィルムで視線を避けるなんて中途半端なことはしたくはありません。やるなら全開か、完全シャットアウトですよ。

というわけでまずは、売れないラーメン屋のような遮光フィルムはきっぱり剥がしてしまうことに。


軍手だけを残して透明人間風に撮影。こんな作業、あっという間に終わると思ったんですが、やってみるとこれがむちゃくちゃ硬い。(そんな話ばっか。)
なかなか剥がれないだけでなく、シールを剥がすときを想像していただくとおわかりでしょうが、急いで剥がすと粘着部分が取れてガラスに残ってしまうのでゆっくりと剥がさないといけません。
そんなわけで、フィルムの端を爪で引っかいてめくったら、全体重をかけてしがみつき、かつゆっくりゆっくり、じわじわと剥がしていきます。上の写真のシートはとくに硬かったやつで、写真のところまで剥がすのに30分くらいかかったでしょうか。
早送りしないとわからないくらいゆっくり剥がしているので、外から見るとただ窓にしがみ付いているように見えるのでしょう。道行く人がけげんそうにジロジロとこちらを見ていきます。だからこんな設計いやなんだよ〜。
けっきょく、1枚1〜2時間くらいかかります。このシートが6枚あり、2日かけて全部剥がしました。指がすごい筋肉痛。いまなら加藤鷹ばりに指でコンクリートブロックを突き破れる気がします。

余計なフィルムを全部剥がしたら、次は窓をつぶす。壁でふさぐのは無理だけど、かわりにカッティングシートで全面を覆っちゃいます。完全シャットアウトです。
内側から、まず黒のカッティングシートを貼り、その上にもう1枚白のカッティングシートを貼る。そうすると外からはただの黒い窓に見え、店内からは白い壁に見えます。



おお、いい感じ!左はまだ作業途中、1枚貼っただけの黒いドアです。
カッティングシートを全面に貼ってしまい、外から中が全く見えなくなりました。これまでは、特に夜中とか明け方に作業をしていると道行く人の視線が気になったものですが、これで集中できます。
工事をしていても外が気になるのだから、食事をしてももちろん気になると思います。みなさんこれで大丈夫ですよ。


外部から遮断され、工事もはかどります。が、逆に遮断されすぎてなんとなく寂しかったりもします。
最初は、家から持ち込んだCDプレーヤーで音楽を聴きながら作業をしていました。実はうちにもCDプレーヤーなんてものがあったんですよ。音楽を全く聴かないので、CDを再生するにはPCかプレステを使うしかない環境が長いこと続いていたのですが、ちょっと前になんとなく音楽が聞きたくなり、だれかいらないラジカセとかコンポ持ってないかと聞いてしんいちから譲り受けていたのです。
とはいっても、そもそもCDを持っていない。手元にあるちゃんとしたCDは5年前くらいに買ったGREEN DAYのベスト盤ただ1枚です。あとはネットで拾った適当な音源を焼いたCD−Rが2〜3枚。1ヶ月に1回くらいしか音楽を聴こうと思わないのでそれでも不自由はなかったのですが、今回のように工事のお供となるとヘビーローテーションですぐに飽きてしまいました。
そんなわけであまりCDプレーヤーの電源を入れることはなかったのですが、最近それにラジオが付いていることに気づきました。点けてみると、ラジオというのも意外とおもしろい。とにかく密室の中で2時間かけて1枚のシートを剥がすみたいな単調な作業の連続なので、音楽も人の声も聞こえてくるラジオはなんとなく気がまぎれてよいです。
1日ずっとラジオを聴いていると、たとえば高速道路情報なんかは1時間に1回くらい流れるので、不必要に現在の道路状況に詳しくなったりします。ニュースは同じ原稿を繰り返し読むだけなのでちっともおもしろくないのですが、道路状況には刻一刻と変化していくリアルタイム性があるのでよいです。あと、なじみの深い地名が出てくると妙にうれしかったりします。「おお、台場の故障車、やっと動いたか」「ドライバーのみなさん初台がご迷惑をおかけしてすいませんねえ」なんていらぬ感慨にふけったりしながら、黙々と作業をしています。

音といえば。スピーカーの設置をしました。
前述のように、オーディオ関連についてはオーディオプロデューサーである底石さんに全面的に頼っています。スピーカーを買いアンプを借り、スピーカーケーブルの配線だけを工務店にお願いしてありました。
で、天井から出ていたケーブルにスピーカーをつなぎ、専用の金具で天井に固定したのです。ケーブルのもう片方は厨房内に出してあり、それにアンプをつなぎます。



説明書を読みながら2時間ほどかかりましたが、それくらいは最近じゃ時間がかかったうちには入りません。そして、これで一気に店っぽくなったじゃないですか。さっそく視聴しよう!

と思ったのですが、どうやったら音が出るのかわからない。PCをアンプにつなげばいいのでしょうが、それには何でどうやったらいいんでしょう。
さっそく底石さんにSOSしました。彼は帰宅途中で電車に乗っていたため、メールで指示がきます。
「パソのイヤホンジャックからアンプの裏のラインインに入れれば良いと思うよ。電気屋にピンジャックから2本に分かれるコードが売ってるからそれをかうべし」
えー、まだ必要なものがあるのか。でももう電気屋は閉まってるし、あした買いに行くというのももどかしい。なんとか、視聴だけでもする方法はないすかね。
「家からプレステ持ってきてアンプにつなげば?」
おお、その手があったか。プレステなら確かに、赤白黄の3本に分かれるケーブルが出ていて、赤と白が音声出力です。それを使えばアンプに接続することができそうです。
そこで家に帰ってプレステを取り外すことにしました。配線済みの家電を取り外すというのはどこの家でも面倒なものですが、背に腹は変えられません。不具合があるならその場で直しておかないと、次の作業に入ってから修正するのは工程上いろいろと不都合があります。それになにより出来あがった成果はすぐに実感したいじゃないですか。
家のテレビ台をひっくり返してプレステを取り外し、いざ店へ。そしてプレステをアンプに装着。



やや緊張しながら電源を入れ、手持ちの唯一のCDであるGREEN DAYをプレステに入れました。
・・・なんの音もしません。たしか、プレステは電源を入れるだけでもロゴが出てジョワワーンと起動音が鳴るはずなんだけど、それすら聞こえません。配線まちがえたかな?天井からスピーカーを外して接続しなおすのは面倒だ〜。

いちおう、CDを再生するためにコントローラーの○ボタンを押しました。画面がないので勘です。
・・・・やっぱり音がしない。アンプにケーブルを差し込む場所が間違ってるのかな?

と、いろいろいじっていると・・・。

・・・She smashed the・・・

!!
一瞬小さく音が鳴りました!

しかしほんの一瞬。また無音に戻ります。借りてきたアンプも持ってきたプレステも長いこと放置されていたものなので、ピンの接触が悪いのかもしれません。一気に期待が膨れ上がり、アンプの裏側のジャックをぐりぐりといじってアンプのボリュームを上げました。
次の瞬間。

・・・Turn up the static left of the state of the nation・・・

鳴った!
スピーカー設置、無事成功!!

スピーカーの設置が完了し、作業がひと段落したということでコンビニに行き弁当を買ってきました。工事中の店は埃っぽいのでいつも食事は家でするのですが、今回だけは弁当を店で食べました。CDを聴きながら。
聴き飽きたGREEN DAYも、設置したばかりのスピーカーから大音量で流れるのを聴くと全く違って聞こえます。さながらお腹の赤ちゃんの心音です。


とまあ、こんな具合に。

一個ずつ、一個ずつ作業を進めていっています。返す返すも、20日なんて無理だった。
最初は、「漆喰塗りで1日、タイル貼りで1日、それでなんとか20日」と甘めかつ大雑把に日程を見積もっていました。しかしいざ手をつけてみると、やることは他にも山ほどある。店は壁と天井と床だけでできているのではありません。窓もトイレも棚もスピーカーも、その他もろもろいろんな要素が集まって店になっているのです。それら全てを素人工事で仕上げようというのですから、2〜3日集中してやったところでどうにもならないのです。

「20日は無理だ」と気づいたのがわりと直前。18日ごろ。
そのときは、壁と天井と床だけじゃない、窓もスピーカーもやらないといけないんじゃん!あとトイレも!そういえば食器買いにいかないと!!食材は!?キ〜!!!とパニックになったものですが、それから腹をくくってコツコツと作業を進めてきました。

気づくと、山ほどあったやることリストが、だんだんと残り少なくなってきました。買ってきた資材も所定の位置に収まり、だんだんと減ってきました。
これから、トイレの床の施工をします。トイレの床は客席部分とは違い、クッションフロアを敷く予定です。厨房内に棚をつけます。棚はホームセンターで板とL字金具を買ってきたので電動ドリルで止めるだけです。テーブルを組み立てる準備をします。色をつけたりカッティングシートを貼ったりです。それらが終わったら床を片付けて、いよいよタイル貼りに取りかかります。

いつ終わるとも知れなかった工事ですが、竣工は確実に近づいています。

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