水清ければ魚棲まず

2005/11/21

新しい店は着々と工事が進んでおり、平行してぼくらもいろんなことを準備しています。トレーニングも積んでいます。さまざまな感想があり、ひとつ長い日記でも書きたいところなのですが、なにせ忙しい。
そしてゆうべは寝不足、明日は朝から食品衛生責任者の講習だし祝前日だし、あさっての文化の日は近くの大学の学園祭の打ち上げの客が来るみたいなのでやっぱり忙しいはず。というわけでここで無理して日記を書くとまた48時間睡眠なしとかになって幻覚を見てしまいそうなので、今日のところは我慢します。

かわりに簡単に身の回りの近況報告。
ひとことで言うと「カロリーが恋しい」。
最近の食事は、店でおじちゃん・おばちゃんと共にすることが多いです。彼らは健康オタクといってもいいほどヘルシーな食生活を心がけており、新しい店のメニューもそれに近いコンセプトを考えています。食卓(というか開店前の店のテーブル)にのぼるのはもちろん和食が中心。肉より魚。動物性食品より植物性食品。豆腐とか。果物とか。湯葉とか。(新しい店では湯葉を豊富に揃えますよ。)
なかでも、食事の際に彼らが特に大事にするのが生野菜です。いつも食卓の中心にはタッパーに入った大量の生野菜が置いてあり、「これが体内を浄化してくれるんだよ」とか言いながら大きなどんぶりに山盛りの生野菜を食べます。外食をしても、帰ってきてどんぶり一杯の生野菜を必ず食べるのが彼らの流儀なのだそうです。
ぼくも好き嫌いはないし、家では不足しがちな野菜を喜んでむしゃむしゃ食べていました。ぼくにとっては高級食材の果物だって、店ではたらふく食えます。主食が米というのも、一人暮らしでは麺類に偏りがちなのでこれまた喜んで食べていました。最初のころは幸せでした。
いやもちろん、今も喜んで食べていますよ。通しで働くときは、開店前にまかない、ひと段落したらまかない、営業が終わったら軽食とデザートという感じで3食すべてが保障されています。学校がある日も、放課後に駆けつけると暖かい食事が待っています。最近は食費が全然かかりません。学校に行くか店に行くかしかしておらず移動は全て原付なので、財布の中身がぜんぜん減りません。ありがたい限り。
が、そうして彼らとヘルシーな食生活を共にして一ヶ月も経つと・・・ひとりになると無性に肉が食いたくなるのですよ。脂身とかバターとかを体が求めているのを感じます。あと生クリームとかパスタとか卵とか。
今日は学校だったので、出かける前に家で食事を作りました。チーズと自家製パンチェッタをたっぷり使ってカルボナーラを作りました。こってり最高。家でごはんを作るときは、ここぞとばかりにこってりで攻めます。あと学校のあと、店に行けば食事があるのをわかっていながらラーメン屋に寄りました。店に行くと案の定おじちゃんが雑炊の準備をしていましたが、今日は実習でお腹いっぱい食べてきたんですよとか言って遠慮しました。
ちょっと前、イタリアンレストランでバイトしていたときは、まかないがスパゲティばかりでもう麺類は見たくもない、米が食いたいとか書いていたのですがね。やっぱりぼくはコレステロールとかプリン体とかが大好きなんです。過去に痛風とか高脂血症と診断され、それでもいつも誤診だと言い張っていましたが、こうして隙を見ては高カロリー食をむさぼる自分を振り返ると不健康体もうなづけます。
でもこれからは野菜も食べるから、お願いだから家では肉を食わせてくれー。とりあえず今夜は明日に備えて、酒を飲んで寝ることにします。

裸の少年

2005/11/22

これまで何度も「22日は食品衛生責任者講習会で、それを忘れるとぼくは店長になれない」と繰り返してきたのは、もちろんネタ振りではありません。食品衛生責任者の資格はリアルに必要なのです。

しかし。
朝起きると、11時半。

講習は9時半からでしたよ。

案の定やってしまいましたね。

ゆうべは「酒を飲んで寝ることにします」なんて書いたけどあれは冗談で、万全の体制でさっさと寝たんですけど・・。「あさっての文化の日」などとまぬけなことを書いていた時点で勝敗はすでに決していたのかもしれない。
寝入りしなにふと「携帯のアラーム、念のためもうひとつセットしといたほうがいいかな?」と思ったのですが、まあ大丈夫だろうとそのまま寝て、ふと目が覚めると11時半。枕元には携帯電話。アラーム止めた記憶なし。目が覚めて「これは夢ではないだろうか」とリアルに頬をつねる人を久しぶりに見た。(自分。)

幸い24日にも講習があって、朝イチに行ってキャンセル待ちをすれば高確率で受講できるようです。おじちゃんには12月までに取っときますと言ってあっただけなので、何事もなかったかのように24日に再チャレンジします。最悪ぼくが資格を持っていなくてもおじちゃんの名前で申請すれば営業許可は下ります。大勢に影響なし。

だがなあ。

重要なイベントにわざわざ失敗したくなる心の働きをセルフ・ハンディキャッピングという、という話を前にもしましたが、これをセルフ・ハンディキャッピングと呼ばずしてなんという。
ぼくはこれまでの人生で、ここぞというときに数々の華麗な寝坊をキメてきました。サラリーマン時代は出張に寝坊したりしました。退職の日にも寝坊しました。会社を辞めて学校に通おうと思い、そうしたら学校の試験(面接)に寝坊しました。しかも2回。そして今、リアル店長試験とも言うべき食品衛生責任者講習にも寝坊。
考えてみると「会社をやめる」といった無茶な選択自体が自分でハンディを背負う行動です。俺の人生、セルフハンディキャッピング。まあ神は、乗り越えられる人にしか試練を与えないっていうしな。(違う。)

11時半に起き、疲れてたんだなと思うことにして、また寝て学校に行きました。
真剣にマネージャーとか秘書とかほしい。
メイドもほしい。(違う。)
しっかりしないとなあ・・・。


***


今日は11時すぎに団体のお客さんが帰り、それからしばらく入店がなくて祝前日のわりには静かな展開でした。ラッキーこれはこのまま早めに閉店かなと思っていると、12時半ごろにどやどやと男ばかり10人ほどが来店。某大学の体育会系のOBのようです。この時間に入ってくるということは朝までコースです。あーあー。

それだけでもショックは大きいのですが、こいつらがすごかった。

誰かがカラオケの歌本を取り出して「ゴールドフィンガー」を流すと、外で待機していた一人がHGのコスチュームに着替えて店内に入ってきました。お約束ですね。
しかし彼らは体育会系。ガタイがいいので皮パンが入りきらず、チャック全開です。
ていうかボタンも止まらず、チンポが丸出しです。爆笑する男10名。

うわー他人のチンポとか、久しぶりに見たよ。
と、引いている暇もありませんでした。乾杯をすますと誰かが「エアコン上げてください」と言いました。けっこう暑いのになあと思いながら言われるままに温度を上げると、彼らは次々に脱ぎ始めました。
みるみるうちに男10人が全員全裸。
そしてチンポにケチャップを塗って振り回したり、トイレのドアを開けっ放しで外からおしっこをしたり、天井の梁にぶら下がって股を開いたり、机に立ち上がってビールかけをしたり、ハサミで陰毛をカットしあったり、マジックで体中に落書きをしあったり、彼らはあらゆる乱暴狼藉の限りを尽くしました。

ときには仲間うちで何やら揉めだして「テメー、言いたいことがあるならはっきり言えよ!」と立ち上がったりもしていました。口角泡を飛ばす勢いで言い争い、掴みかからんばかりににじり寄る二人。ただし二人とも全裸。一人は全裸にネクタイ。掴みかかろうとしても掴めるのはチンポくらい。

かと思うとすぐに仲直りし、リンダリンダに合わせて「チンポチンポー、チンポチンポチンポー」と大合唱。カラオケで、何を歌っても歌詞はすべて「チンポ」とか「亀頭」とかです。小学生かよ。

そんな全裸の男10人の中で皿を下げたりドリンクを運ぶのです。まるでぶっかけもののAVのADになった気分です。
しかしおじちゃんは涼しい顔で「これだけ騒げばずいぶんすっきりするだろー。おいおばちゃん、伝票に『脱ぎ代』って書いといて」などと言っています。おばちゃんも、「まるで子どもに戻ったようだねえ」と暖かいまなざしで眺め、彼らが「WAになっておどろう」に合わせて「オ〜オ〜オ〜、さあ輪になって脱ごう〜」と歌っている、その輪の中心に飛び込んでグラスを片付けていました。

彼らは3時すぎに帰っていきました。もちろん服は着ていきましたが、一人は「ズボンがなくなっちゃって・・・」と言いながら下半身裸で寒空の下に消えていきました。

ここまでバカ騒ぎしたら楽しいだろうなと、ある意味うらやましくもありました。そしてこういう飲み会を受け入れてきたおじちゃんおばちゃんの広い心に脱帽です。イベントサークルのガングロ達も動物に例えられますが、今日はまた別の種類の動物に遭遇しました。
二階の新しい店のコンセプトは「着衣で飲む店」です。

責任者たるもの

2005/11/24

今日のネタは、なんといっても食品衛生責任者講習以外にはありえないでしょう。どっちに転んでも。
結論からご報告すると、受講しました!
ま、食品衛生責任者が無事に受講できましたというのをネタにするというのも、自分でシャツにアイロンをかけましたと報告するのと同じくらいレベルが低い話で、嬉々として日記を綴る気もいまいちしないのですが。


おととい見事に寝坊してすっぽかしたので、今日の講習のキャンセル待ちにぼくは並々ならぬ意気込みで望みました。なんたって携帯のアラームを4つセットして寝たのです。
・・・で、その3つめで起きました。ううむ、寝坊グセのほうも並々ならぬものがありますね。予定(最初のアラームの時間)より45分も遅れて目が覚めて、自分ってすごいなあと思いました。ここまでして寝坊しようとするのがすごいのか、寝坊しつつも間に合う時間に起きたのがすごいのか。たぶんどっちもすごくない。

さて、遅れたので慌てて準備して講習の会場へ。受付がスタートする9時きっかりに到着しました。本当は8時半ごろに行ってキャンセル待ちの先頭に並んでやるつもりだったんですが。でも9時の時点で、キャンセル待ち番号4番だったのでまあ大丈夫でしょう。けっこう当日キャンセルあるっていうし。ぼくもしたし。
がしかし。受付終了の9時半が近づくにつれ続々と人が集まってきます。受付順に番号が振られて席に着くので、受付近くで待っていると席の残数がリアルタイムにわかります。定員170名で、いま150番だから、あと20人・・・早く締め切れと気が気じゃありません。果たして9時半になり、係りが「じゃあキャンセル待ちの人どうぞ、1番○○さん」と告げたとき・・・その受付番号は167番!ぼくが4番だから、167、168、169、170・・・?ギリギリセーフ!ぼくは心臓バクバクで、まだ呼ばれもしないのに身を乗り出して列に並ぼうとしました。
と、そのときエレベーターが開き、受講票を持った男が駆け込んできました。だだだダメだよ遅刻厳禁!ダメ、絶対!!
しかし係の人は無情にも、「じゃあこちらへ」とその男をぼくのすぐ前に案内しました。目の前が真っ暗になりました。

が、その後、「はい次、4番の人どうぞ」。
・・・へ?
なんのことはない、ぼくは定員を勘違いしていて、本当は190名でした。楽々セーフでした。目の前は一瞬で明るくなりました。
定員190名で予約が満席になっていても、当日会場に現れるのは170名足らずというわけです。実際、今日キャンセル待ちをしていた人は全員受講できて、それでもなお数名の空きが出ていました。同じキャンセル待ちの人と少し話をしたところ、その人は居酒屋チェーンの社員らしいのですが、彼も何日か前の講習を予約していたけど寝坊して今日になったそうで、彼の同僚も一回寝坊してキャンセル待ちで受講したらしい。当日朝まで働いて受講する人も多いこの講習会に寝坊はつきもの、キャンセル待ちはガバガバに広き門だったのです。心配して損した。

とまあ、あまりおもしろくない話をしてしまいましたが、実はその後の講習は取り立てて話すこともないのです。午前と午後に分けて計6時間、衛生法規・公衆衛生・食品衛生についての講義があります。小テストはあるようですが、できないと資格が取れないというわけではないので緊張感もありません。講師がマギー司郎みたいな人で、講義の合間に手品をして、会場がシーンとしていると100円ショップの「拍手してください」という札を掲げ、しかも手品のタネは丸見えというとてつもなくイタい人だったのでぼくは早々に寝に入りました。
周りを見渡すと、ガラの悪そうな兄ちゃんあり、ド派手なおばちゃんあり、場違いに色っぽいねーちゃんあり、実にさまざまです。運転免許の書き換えの光景に似ているかな?けどスーツ姿の人とかあんまりいないからちと違う。はた目には何の集まりかさっぱり分からないでしょうね。
でも休み時間になって、周りから聞こえてくる電話の話し声が「例のガスコンロの件ですが」とか「今日のシフト、6時まで延びれる?」とか。はたまた机に向かって必死に「デコポン発注票」を書いている人がいたり、まぎれもなくリアル店長の卵たちの集まりなのでした。

6時間の講習のうちゆうに5時間は寝て、でも学校で習っている内容ばかりなので小テストは満点。それで無事に食品衛生責任者資格をゲット!
ね、「自分でアイロンかけました」っていうくらい簡単なもんでしょう。寝過ごしさえしなければね。


そうして念願の食品衛生責任者手帳を手に入れて会場を後にし、ぼくはその足でハンズに向かいました。やっしーから、「無事に受講でき、ちゃんと資格がもらえたら例のプレート受け取ってください」とメールをもらっていました。
飲食店はすべて食品衛生責任者を置かねばならず、店には「食品衛生責任者 ○田×男」と書いたプレートを掲示する義務があります。ぼくはワカレミチ専属デザイナーであるやっしーに、名刺といっしょに食品衛生責任者のプレートの作成も依頼していたのです。

ハンズのレーザー彫刻工房に行き、やっしーの名を告げて彼女が発注していたそのプレートを受け取ると・・・。



超立派!

やっしー曰く「たぶん、世界で一番立派なプレートです。だって、こんなのに金かける人いないって」。
まさにその通り。食品衛生法がプレートに求めるのは掲示の義務のみで、サイズ以外はとくに様式も材質も決められていません。自作も可ですが、講習会の際に名前のところが空欄になった青いプレートを700円で購入することもできます。そんなのに700円払うのはバカらしいのですが、そんなのを自分で作るのも同じくらいバカらしいので、けっきょく受付にはプレートを求める人で長蛇の列ができます。しかしぼくは、それを作っちゃいました。

「私とゼンデンとノンからの店長スタート祝いなので、お代はいりませぬ。一生使ってください」とのこと。
まさに一生ものだ!


すったもんだでぬるっとゲットした食品衛生責任者資格ですが、こうして見ると重みが感じられるものです。店はもうすぐです。
仮にも責任者ですからね。もう寝坊してる場合じゃありません。ぼくもこれからは、ビシッとしなきゃあいけません。
そう、いつか、この札を自分の店に掲げる日まで!

ゴールなんかじゃない

2005/11/25

学校が終わり11時ごろに店に行くと、ガングロ連中がやんややんやと騒いでいた。それでもコースの料理は全部出し終わっていて、店的にはひと段落したところといった模様。「もう少しで終わるから、ちょっと待ってて」とおじちゃん。
店は立錐の余地もないほどにガングロで埋め尽くされていたので、ぼくは工事中の2階でしばらくの間待つことにした。
「あと10分くらいで終わるから。新聞でも読んでて。えーっと、今日は25日だね、はいこれ」と、おじちゃんは古新聞の束の中から夕刊ゲンダイをつまみ出し、2階の鍵とともにぼくに手渡した。

一人で2階に降り、防火扉の鍵を開ける。
シンナーだかニスだか、そういう薬品の刺激臭がつんと鼻をつく。
暗がりを、手探りで奥の配電盤のところまで歩き、主電源を入れる。
電気が点く。



だんだんと、できあがってきたぼくらの店。


立ったまま、受け取った夕刊ゲンダイをぱらぱらとめくる。
やたらライブドア関連のニュースが目立つ。またなんかやったのかな?
しかし、「ホリエ社長、なぜフジテレビを?」「フジの女子アナがいちばんかわいいからですよ」なんてしょーもない4コママンガがある。いくらなんでもそりゃないだろう、と思って日付を見ると、25日は25日でも、2月25日。
おい。

座敷に新聞を敷き、その上に座る。あたりには昼間の工事の資材や台車がそのままに転がっていて、いろんなゴミや削りカスが落ちていて汚い。
でもだんだんと、できあがってきたぼくらの店。
まだテーブルも冷蔵庫も何もないのでちっとも店らしくないのだが、小上がりの座敷の土台ができ、背板が張られ、客席のカタチが見えてきた。

ここしばらくはいろんなことが目まぐるしく動いた。既存店の営業も忙しかった。工事も、ちょっと前まで本当に11月中に終わるのかしらんと思っていたのだが、ニスだかなんだかの臭いがするというのは、仕上げの塗装をしている箇所もあるということだ。ゆっくりに見えて、着実に完成の時が近づいている。
工事をしてみて始めてわかるトラブルというのも、幸いなことにさほど大きなものはなかった。排気のダクトが客席の天井の一部に張り出して、その下のテーブルの席数が想定より減ってしまった程度。工事は順調のようだ。

が、正直なところ、順調の「ようだ」としかぼくには言えない。だって工事をしてるのは大工さんだからね。ぼくは工事が終わったあとに店の様子を見て、おお今日はこんなところが、と進捗を眺めているだけ。
そして、工事だけでなく店の準備も、けっこうぼくの預かり知らぬところで進んでいる。いちおう「店長」という肩書きをもらってはいるが、これまでにぼくがした店長らしいことといったら食品衛生責任者資格を取ったことくらいなのだ。大事なことを決めるのはすべておじちゃんである。メニューも、内装も。

この話が始まったときに、ぼくは「シミュレーションゲームのようだ」と書いた。が、今のところゲームをやっているのはどちらかというとおじちゃん。楽しそうに、内装をこうしよう、食器はこうしよう、メニューはこうしようと様々なパラメーターを動かして遊んでいる。おじちゃんはけっこう頑固な人で、自分がこうと決めたら絶対に譲らないので、ぼくが何か口をはさんでも通ることはない。
おじちゃんのセンスはさすがに古く、ぶっちゃけ彼の店作りはぼくのセンスと相容れないものもある。しかしオーナーの決定は絶対。ぼくは「実家の応接間の5円玉の五重の塔」を見るような心持ちで、彼の決定を眺めることも多々。
ぼくはどちらかというと、他人のシミュレーションゲームを眺めているだけ。

でもそれはすごく当たり前のことで、だってぼくは「店長」ではあっても「雇われ店長」である。金も一円も出していなくて、しかも社員としての実績すらない。新しい店はまぎれもなくおじちゃんの店で、ぼくはそれに乗っからせてもらっているだけだ。自分の意見が通らないのはあたりまえ。それに不満がある、というわけではない。
そうではなく、自分の店を自分の思うように作っていけるおじちゃんを見ていると、うらやましいなあと心底思うのだ。


やっぱり自分の店を持たないとな。
そもそもぼくが会社を辞めたのは、「1から10まですべて自分の思い通りに何かをやってみたい」と思ったからだ。その手段として飲食店をやることに決め、そのために学校に通うことにした。料理が好きだから店をやりたいと思ったわけではない。いやもちろん好きだけど。あくまで飲食店は目的ではなく、手段。目的は「すべてを自分の思い通りにやること」。
すべて思い通りに進めていけているおじちゃんは、本当に楽しそう。

店の窓の内側には、おじちゃんの好きな漢詩かなにかが切り文字で入った。正直、ダサい。
メニューもすべておじちゃんが考えた。微妙に「四季の味」「鍋」「串焼き」といった当初のコンセプトからズレている気が、ぼくにはする。一方でコースメニューは伝統的な日本料理の様式にのっとったもので、これまた単品メニューの素朴さからズレている気もする。
でもおじちゃんは新しい店で、自分がこれまでやりたかったことを全部やっているのだ。既存店の営業と並行で疲れてもいるだろうが、むちゃくちゃ楽しそうだ。バラ色なのだ。

だれもいない店の中で、新しい建物の臭いの中で、ぼくも頭の中に自分のやりたい店を思い描く。
オープンを前にして言うのもなんだが、いつかはおじちゃんのもとを卒業したい。自分の店をやりたい。
始まる前に言うのもなんだが、それは絶対に忘れちゃいけないことだと思うのだ。
おじちゃんはぼくを、業者の人とか内装屋とかに積極的に紹介してくれる。そのときに彼は必ず「この店の初代店長です」という言い方をする。初代、ということは、次の人がいる、ということだ。ぼくが立派に勤め、学び、いつか巣立っていくことは、おじちゃんとぼくとの約束でもある。
きっとおじちゃんは、ぼくがずっとこの店で働きたいと言えばいつまでも養ってくれるだろう。仮にぼくが望めば、彼らが引退したらそっくりそのまま店を継がせてもらえるなんてこともひょっとしたらあるかもしれない。
でもそれは、ぼくの望むことではない。

いつか自分の店をやりたい。思い通りにできたら、楽しいだろうな。経済的に成功しなくても、ただ、1から10まで自分の思うとおりに。サイトで日記を書くように。
工事中のぼくらの店は、暖房ももちろんついておらず、コートを着てマフラーをしたままで、ぼくはひとりぽつんと店の真ん中に座ってずうっと考えていた。

臨月

2005/11/29

店を作るというのは本当に大変なもので、設計から什器備品から皿からメニューから、いろんなところへの申請まで、それはそれはいろんなプロセスがあります。そばで見ているだけでもいかにも大変そうだし、同じことを自分がやるときにはとても参考になります。
最近友だちに赤ちゃんが相次いで生まれたのですが、店を作るのは子どもができるのに似ているなあなんてなんとなく思います。子どもができたら、病院行ったり名前を考えたり、服とかいろんなものを揃えたり、知人にお知らせのハガキを送ったり、いろいろ大変ですよね。そんな感じ。
3階の店で通常営業をしているとときおり2階から工事の轟音が響くのですが、「2階が別の店なら文句も言いたくなるところだけど、今回は違うねえ」とおじちゃんは言います。工事の音も、さながら子どもがお腹を蹴っているといったところですね。

店の工事は無事に終わりそうなのですが、ひとつ大きな問題があり、それはなんと保健所への営業許可申請が遅れていたこと。これは子どもが生まれたのに出生届を出すのを忘れたというくらいの大ごとです。
本来は、設計の図面ができたところで保健所に事前の相談をしに行くというのが営業許可申請をスムーズに進めるうえでの鉄則です。そのへんは設計を受けもつ業者がぬかりなく進めてくれている・・・はずだったのですが、なんと業者はそのことを知らなかったらしい。
事前の相談をしていないと保健所がヘソを曲げて、工事が終わってもなかなか営業許可がもらえないと聞いていました。当初の予定では12月1日に関係者を招いてオープニングレセプションをし、2日に通常営業を開始するつもりだったのですが・・・すわ黄色信号!?

幸い、今の店で無事故で長く営業をしている実績があるからか、おじちゃんが慌てて保健所に駆け込んだところ通常より早く営業許可のための検査をしてくれることになり、スケジュール通りに開店できることになりました。

が、一番大事な営業許可においてもこんな調子なので、意外と裏側はバタバタです。いちおう器とかは揃えたけど足りるのかなあ。テーブルも、用意したけど並べてみないと何があるかわからない。メニューも、PCで自作したけど実際に作って器に盛ったことはない。ドリンクも、今までの店とはガラリと違う品揃えなんですが、日本酒とかはいいにしてもカクテルなんかは誰も作ったことはない。ていうかどこにボトルを置いてどこでドリンクを作るのかしら。まだ工事が終了していないのでそういったオペレーションは詰めきれておらず、かなり手さぐり状態でスタートすることになります。
いちおう1日にオープンでレセプションをし、2日から通常営業を行うことには変わりないけれど、しばらくは関係者や知り合いや常連を相手に地味に営業して様子を見て、その間にこっちのオペレーションも整えていって、対外的に銘打つ「オープン」は12月8日、ということになりました。
いやホント、新しい店をやるのって大変だなあ。いくつもの店を手がけてきたおじちゃんでさえ、「正直、やってみないとわからん」という状態に陥っています。

ただ、人間の赤ちゃんとその母親たちを見ていて思ったのは、「子どもはなんやかんや言って、育つ」ということです。たとえばぼくに子どもができたときのことを想像すると、育児書とかいろいろ読んでそりゃあ勉強すると思うんですよ。で育児書に書いてあることと少しでも違うことが我が子に起きたらすごい心配する。この子はどうもミルクの量が少ないようだ、睡眠時間が少ないようだ。ウンチがどうも下痢気味だ。きのうから泣いてばかりいる、どこか悪いんじゃないか・・・。
まわりの母親たちも、始めはそういうことをすごく心配しているようでした。しかし育児書には同時に、「そういうのは赤ちゃんによって全然違う。個性なので気にする必要はありません」というようなことも書いてあるようなのです。母親たちもそのうちに、何があっても「個性個性」と図太く構えるようになっていきます。確かに親がいろいろと心配したところで、赤ちゃんは思うようにミルクを飲んだり寝てくれたりするわけではなく、そしてなんやかんや言ってスクスク育っている様子。

店についても、同じようなことが言えるのかもしれません。
万全を尽くしたようでいて、準備には必ず漏れがある。漏れをあげたらきりがない。それでも時間は待ってくれずにオープンの日はやってくる。でも漏れがあったら、やりながら対処していけばいい。そうしていつのまにか万事うまく回っている。そんなものかもしれません。まだわかんないけど。
とりあえず、営業許可は下りるはず。12月1日には開けられるはず。1日にオープニングレセプション、2日に営業開始、8日にグランドオープンという妙なスケジュールになっておりますが、それも個性個性。図太くいきましょう。
興味のある方はぜひおこしください。メール等でご連絡いただければ場所と名前をお教えします。最初のうちはいろいろと不手際もあるかもしれませんが、産まれたてのぐにゃぐにゃなところから、その店が育っていく様子を眺めるというのも、親戚っぽくて楽しいかもしれませんよ。

開店前夜

2005/11/30

いよいよ明日はプレオープン。明日からしばらくは店の立ち上げに専念するので、学校に通うのは今日が最後です。といっても何の感慨もなく、いつものように眠い目をこすりながら授業を終え、帰りの支度をしていると・・・。

クラスメイトの何文字さんが、とつぜん教壇に躍り出て叫びました。

「明日、12月1日は、店長くんのお店がオープンします。おめでとう!」

そして教室中からクラッカーの嵐!
うれしいサプライズで、みんなが送り出してくれました。

正確には、みんなが机の中とかにクラッカーを隠し持っていたのを授業中に気づいてしまっていたので、あんまりサプライズではなかったのですが。でもやっぱりクラス中からいっせいに自分に向けて降り注ぐクラッカーにはびっくりしました。

だれかが誕生日のときなんかにこういう風にサプライズでクラッカーを鳴らすのは、うちのクラスのお約束になっています。年甲斐もなく学園生活をエンジョイしています。
でも正直なところ、ぼくはこういうのはあんまり好きではありませんでした。少なくともクラス全員で半強制でやることではないと思うんですよ。実際、全員でお祝いの寄せ書きなんかをすると必ず「同い年だったんですね」「下の名前初めて知りました」とかのいかにも関心薄い書き込みがあったりします。そんなの全然お祝いじゃないし、誕生日のお祝いはそれを心から祝いたい親しい人たちだけが心をこめてやればいいんです。そして「今日は○○さんの誕生日で〜す!」ってやってる影で、「あ・・・わたしも先週誕生日だったんだけどな・・・」って思ってる地味キャラが絶対にいるはずなんです。

でも今日は、さすがに祝われてもいいだろう、ぼく。
だって、「あ・・・俺も先週店出したんだけどな・・・・」なんて思ってる人は絶対にいないのです。調理師学校に通っている人は、誰もが一度は心のどこかで自分の店をやることを思い描いているはずで、一番乗りでその夢に手をかけたぼくに、みんなは心からおめでとうを言ってくれているのです。

クラッカーのあと、「みんなで記念写真を撮ろう!」ということになり、ぼくは無理やり輪の中心に押し出されました。天邪鬼なぼくは、写真はいつも必ずカメラ目線を外すのですが、でも今回だけはおとなしくまっすぐ写真に納まりました。やっぱりうれしかったのです。

そしてみんなからお祝いの酒をもらいました。
「瑞兆」という日本酒です。
今後すごくいいことがあるであろう、という意味だそうです。

みんなありがとう!


***


そして店へ。
昨日の段階でもまだまだ、「これで本当に完成するのかな?」と少し不安だったのですが、今日になり一気に工事が片付きました。店のドアが入り、看板が届き、テーブルが入り、什器備品が入り、酒のボトルが入り・・・。昨日までは工事をしていたので運び込めなかったもろもろが、一気に揃いました。工事で埃をかぶっていた床もクリーニングが入り、全てが整いました。
が・・・正直なところ、「一気に片付いた」というか「一気に片付けた」という感じ。なんせ工事終了に合わせて30日納品になっていたいろんなものがどーんと届いちゃったのです。座敷は荷物で埋め尽くされ、店が完成した感慨にふけるというよりは昨日より散らかっている。「え・・・これ片付けるの?明日までに?」って感じです。

3階の店は早々に閉めて、家族総出で片づけをしました。まずは食器の山を紐解いて洗い、棚に並べ、冷蔵庫や製氷機の中をタオルで拭いてスイッチを入れ、ビールや酒のボトルを詰め、テーブルを拭き・・・。新しい店ができるのは赤ちゃんが生まれるのに似ている、と書きましたが、新しい店ができるのは引越しにも似ている。ていうか今日やったのは完全に引越し作業。掃除して荷をほどいて所定の位置にしまいます。新居は気持ちがいいけれど、荷物を片付けるのが大変だ・・・。

もちろん片付けている間にも続々と漏れが見つかります。営業許可は無事に下りたのですが、ガスの開栓を忘れていたことに気づき慌てて東京ガスに電話して明日の朝イチに来てもらう手配をしました。危なかった。
用意しないといけないものもたくさん。書き出していくとあっという間にメモ用紙が埋まっていきます。クイックルワイパー・くつべらといった比較的どうでもいいものから、灰皿・グラス・栓抜きといった不可欠なものまで。さらに食器屋に頼んでいたはずの器のうち、お盆や吸い物のお椀が来ていなかったり、電子レンジや炊飯器は明日にならないと届かなかったり。ていうかグラスがないってどういうこと!何屋やねん!(居酒屋です。)
と、「全てが整った」とはとうてい言い難い状況。しかしあと10何時間後にはオープニングレセプションが始まります。その前にはぐるなびなんかの広告用に店内の写真も撮らないといけません。全て整えておかないわけにはいかないのです。半泣きで片付けました。

で、いつの間にか時計は午前5時すぎ。
東の空が白み始め、ドタバタしているうちにオープンの日を迎えていました。
それから松屋で豚丼食って帰宅。30日の日付で書いていますが、実際には1日の朝8時です。
少しは寝とかないと・・・。でもぐるなびの原稿仕上げないといけないし、なにげに美容院も予約しちゃったし、早めに行ってまだ片付けしないといけないし、買い物しないといけないし。日記書いてる場合じゃないし。

でも、店がオープンする日なんてそうそうないんだ。寝てる場合じゃないよね。
さあいよいよその日がやってくる!

ホームテキスト全過去ログ>2005年11月B

  
ワカレミチ ホーム

ホーム コンセプト テキスト 自己紹介 掲示板
テキスト
店長日記
おすすめ過去ログ
全過去ログ
「麺こて」おすすめ日記