今日は何の日?

2005/11/11

きのう書いたとおり、来たるべき開店へ向けリズムを整えるぞ!ということで、ゆうべは店での作戦会議(もしくは単なる一家団欒)から帰ってきた後に、気合を入れて簿記の勉強にとりかかりました。
簿記は、将来自分で店をやるならぜひ習得してほしいとおじちゃんに期待されているスキルのひとつです。彼は飲食業に入る前には大学で会計学を学び、会計士事務所に勤めていたこともあるほどの人。言わば簿記はもう一つの本職です。もちろん今でもきちっと帳簿をつけているそうで、国税の抜き打ちの検査が入ったときに査察官に「飲食店でこんなにきちっとやっているところを始めて見た」と言わしめたというのがおじちゃんの自慢の一つです。新しい店でも独立した帳簿を作り、勉強のためにおばちゃんとぼくでそれを管理することが命じられています。
ぼくも簿記は、いつか店をやるなら必須かなと思って前にちょっとやったことがありました。いちおう3級を持っています。でも3級だし、2年近く前だし、あのときは本当にちょっと勉強しただけで半分まぐれで受かってしまったようなもの。オープンまでにしっかり復習しておかないといけないのです。

2年ぶりに簿記の参考書を開きます。「仕訳」「勘定」などの懐かしい用語の数々。あのときは、いつか実務に役立てるためという志はあったものの、結局は単に3級に受かるためだけの勉強で終わっていました。
だから全然覚えていないと思っていたのに、今回はちょっとやったらすぐに思い出してきたのに我ながら少しびっくりしました。それどころか、前は紙に書きながら「費用は左で」「収益は右で」とえっちらおっちらやっていたのに、今回は借方・貸方が考えなくとも感覚で理解できているようになってきているではありませんか。
あのころと違い今は、もう目の前に迫った実務のための訓練なのです。イメージが沸くというか、「仕入」とか「売上」といった用語が手に取れる実感として感じられ、なんとなく理解も深いような気がします。
実際には簿記3級の勉強をもう一度したところで、すぐに実務に役立つわけではありません。簿記の試験範囲は広く浅くだけど実際の業務で使う勘定科目は限られてくるでしょうし、おじちゃんが商品有高を先入先出法で管理しているのか移動平均法で管理しているかもわかりません。ていうか飲食業って、そういう在庫の管理のしかたするのか?しないよなあ。とにかく、実務に入ってみないと本当のところは全くわからないのです。
でも、借方・貸方の感覚といった簿記の基本理念が今になって身につきつつあることを実感し、一通りおさらいすればスムーズに実務に入れる体勢が整うのではないかと、よい手ごたえを得ました。

問題集の練習問題なんかも、前では考えられないほどにすらすらと解けるんですよね。簿記の勉強をしたことがある人ならお分かりでしょう。簿記の問題は一種独特の文章題で構成されていて、「東京商店の4月の取引を仕訳し、元帳へ転記しなさい。4/1大阪商会から商品¥20,000を仕入れ、代金は小切手を振り出して支払った」てな具合です。頭の中でその「東京商店」のところが自分の店になり、「大阪商会」がなじみの魚屋さんになるのですから。それだけでもう問題の半分は解けたようなものと言ったら言い過ぎでしょうか。

そりゃもう、すらすら解きますよ。
「11/10、保険料19,000円を現金で支払った」
(借方)支払保険料 19,000 (貸方)現 金 19,000
ですな。

・・・。
・・・・。
11/10、保険料・・・・?

健康保険の保険料払うの忘れてた!!!!!


とまあ、前置きが長くなりましたが、今日の日記は簿記の話ではなく、任意継続の健康保険料を払うのを忘れていたというお話です。
上は事実を再構成したフィクションですが、簿記の勉強をしていて問題の「11/10」という日付を見て健康保険料の支払い期限のことを思い出したというのは本当です。
学生さんやまっとうなサラリーマンさんにはあまりなじみのない話かもしれませんが、会社をやめるとそのままでは会社の健康保険組合から脱退しないといけません。国民は全員何らかの健康保険に加入していないといけないので、退職時には国が用意する国民健康保険に加入するか、もしくは2年間の期間限定で前の会社の健康保険に「任意継続」という形でぶらさがることができます。
ぼくは去年の3月に会社を辞め、辞めた会社の健康保険組合に任意継続で加入していました。任継のほうが、国保より保険料が安くすんだからです。このように会社を辞める人はみな、「どっちの健康保険が安いか」というのを検討するのです。
そして去年の9月に、契約社員ながら社会保険完備のアルバイトを始め、そこの健康保険組合に加入しました。そのバイトもこの9月末でめでたく退職となり、そこでまた健康保険の任意継続の手続きをし、10月に保険料1万9000円を払っていました。おじちゃんの会社は、大きな声では言えませんが各種社会保険何もナシなので、丸2年は任意継続の健康保険にお世話になるつもりでした。
「任意継続の健康保険は毎月10日に保険料を支払わなければいけない」という掟は、学生さんやサラリーマンさんには知られていないけれど、任意継続の健康保険に加入している人ならみんな知っている超ド級の定説です。なんたって任意継続は、保険料を滞納すると自動的に脱退になってしまうのです!それがふと気づいたら、11日の午前2時!!

あわわわわ、どうしよう。任意継続の健康保険が脱退になると、強制的に国民健康保険に加入ということになります。確か国保の保険料、ものすごく高かったよなあ!簿記の勉強をしていたはずが、とたんに手につかなくなりました。なので勉強は切り上げてさっさと寝ました。(おい。)
そして目覚ましで朝8時に起きて、いの一番に健康保険組合に電話をしました。
すみません!きのう保険料振り込むの忘れちゃいました!!今すぐ払いますのでどうか堪忍して〜!!!

「・・・では、必ず今日中に振り込んでください」

・・・はあ?
超あっさりと、待ってくれました。
なーんだ、「任意継続は1日でも遅れたらアウト」ってよく言われるけど、バッファはやっぱりあるのね。心配して損した。

いやあ、これはまるきり日記のネタですな。まるできのうの日記が前フリですよ。生活のリズムがつかめない、寝る時間も一定しないという話の続きで、最近じゃ学園祭準備期間で学校の授業もないわけです。そしたら曜日もわからなくなって、さらには日記がサボりがちで日付も忘れていたっちゅう話です。危ないとこでした。


日記のネタなのでいろいろと情報を補完しておこうと思い、国民健康保険の保険料について調べることにしました。
国保の保険料は住民税によって決まります。東京は住民税が高いので、おのずと国保の保険料も高くなってきます。1年半前に会社を辞めたときに試算したら任意継続より1万5000円くらい高くなった覚えがあります。この9月にやめたときは深く考えずに任意継続にし、保険料1万9000円を払っていたのですが、東京都民である限りやっぱり任意継続のほうがお得なはず。
いま国保に加入すると正確にはいくらになるのか、区役所に電話してみました。ぼく住民税いくらいくらなんですけど、国保いくらになりますか?

「え〜それですと・・・だいたい11万弱ですね」

うわっ高っ!やっぱり任意継続を失わなくってよかった〜。胸をなでおろします。

「月額の保険料は、それを12で割ってください」

・・・。
・・・・。
9000円・・・・?

任意継続より、1万円も安い!!!


えー、たいへん前置きが長くなりましたが、今日の本題は任意継続の保険料を払うのを忘れていたということでもなく、「何も考えずに健康保険を任意継続にしていたけど、実は国民健康保険のほうがだいぶ安かった」ということなんです。
これでこそ日記ですね。二段オチです。我ながらよくできました。
国保の保険料は住民税で決まる。住民税は前年の所得で決まる。前年といえば、ぼくは会社をやめてしばらくニートを満喫していたので所得が極端に低く、したがって今年の住民税も低く、思った以上に国保がお買い得だったのです。
もう一度健康保険組合に電話して、「あのー朝に電話した者ですけど、実は国保のほうが安いことに気づいたのでやっぱりそのまんま脱退させてください」と担当者に言いました。恥ずかしかった。

いやあ、簿記の勉強はさっそく実務に役立ちました。なんたって毎月1万も保険料が浮くことに気づいたんですから。(違う。)
そしてやっぱり生活のリズムですね。「めざせ真人間編」に戻ったかのようなしょーもない展開はもうこりごり。人として、日付くらいは把握しましょう。
ぼくにとって次に来る重要な日付は「22日」です。これは忘れないようにしよう。食品衛生責任者資格の講習があります。それを忘れると、ぼくは店長になれませんのでね。

47時間

2005/11/13

11日の日記を書いたのは、朝まで店で働いて、6時半ごろ家に帰ってからのことでした。
けっこう長い話だったけど書いててノッてきてしまい、8時半までかかって書きました。日付的には12日。
それから眠り・・・はせず、なんと朝っぱらから学校に行かねばなりませんでした。学園祭だったのです。

学園祭、去年ははりきってみんなを招待したりしましたが、今年は準備期間から超ローテンションでやりすごしました。どうせ今年も夜間生は、「そのへんで餅でもついてろ」と杵と臼を渡されるだけなのです。
ぼくは徹夜明けで餅なんてつくほどに精力的な人間ではないので、今回は「炊き出し係」という腹黒い役職をゲットしました。



実直な労働者たちがえっさほいさと餅をついている裏で、せいろでもち米を蒸します。



餅の出所はすべてこの炊き出し係にかかっているので、餅をつくのも休憩するのも我々のさじ加減ひとつ。「A組、あと何分でつきあがる?」「じゃあB組、ひと息入れていいよ」「その後ラッシュかけていくからねー」などとなんだか指揮官風です。それでいて仕事は、せいろをセットしたり外したり蒸しあがった米を運んだりするだけ。ちょっと熱いだけで体力的には楽チンです。
本当は、米の浸水時間が不十分でうまく炊けず餅がつけなくなるトラブルが発生したりしてけっこう大変なこともあったのですが、日記的には別におもしろくないので省略。
10時に集合してそんなことをやり、後半の受け持ちの人に飯炊きの極意を引き継いで、14時にお役御免です。しばらく学園祭を見物。といっても、模擬店に入ってゆっくり茶なり飯なりしばきたかったのですがどこもかしこも大混雑で、学校中を歩き回ってヤクルトを3本30円で買った程度。これならさっさと学校を出てマックかなんかで休んで時間をつぶしていればよかった。

だって・・・店に行き、16時から仕事なのです。

11日付けの日記にも書いたように、10日は8時に起きていました。そして夕方から店に行き朝まで働いた。明けて11日、寝ないで学校行って餅ついた。いやついてないけど。でも徹夜明けで立ちっぱなしだったのでけっこうこたえました。それからまた仕事ですよ。
店は空いていれば楽だし、小さな店なので深夜になってお客さんがいなくなれば早めに閉めて帰れるのですが、土曜ですからね、期待も空しく予約はびっちり。超忙しい。でも頭が回転しません。焼き鳥も回転させるのが追いつかず、瞬く間に焦げます。正確に言うと焼き場で立ったままウトウトし、ふと目を開けると焦げています。
やがて日付は明けて12日。深夜になっても客は残り、「徹夜明けなので帰ってもいいですか」とはさすがに言えず。深夜はドリンクオーダーばかりで、ぼくは一人厨房で黙々と焼き鳥の仕込みでもしていればいいので体力的には楽ですが、それでも無睡眠が40時間を越えるともう限界。鶏肉は皮がけっこう固くて串を貫通させるときにけっこう力がいるのですが、鶏肉に串を刺して皮で串が止まるとともに半分寝てしまい、無意識のうちに串が皮を突き破って、串が指に刺さって飛び起きるということの連続。

最後はもう頭がクラクラ目がチカチカ。たとえば床のタイルのちょっとしたシミ、そういうのがすごくビビッドに見えて目に痛いのです。危ないクスリとかやるとそんな感じなのかなあ。
5時に営業が終了して床にデッキブラシをかけるときには、そのシミが気になってじっと見ているうちに意識が朦朧としてきて、なんだかシミが意味のある記号のような気がしてタイルから目が離せなくなり、ついデッキブラシをかけているのを忘れてタイルを見ていると頭の中がその記号でいっぱいになり爆発して、フラーっと前のめりに倒れかけて危ない危ないと目を覚ます。
油にダイブとかしないでよかったですよ。

帰ったのは12日午前6時。丸二日、徹夜を完遂。ほとんどが立ちっぱなしでさすがに疲れました。もう若くないな。
いや、若いとかそういう問題じゃなくて人間の機能として無理。生活のリズムもへったくれもなし。
どうせなら文字通り丸二日、48時間起きていてやろうと布団に入ってPCをいじっているうちに、どこでとも知れずに7時ごろ、深い深い眠りに吸い込まれ、長い一日、いや二日が終了したのでしたとさ。

曖昧な僕の輪郭

2005/11/15

最近特訓していることに、簿記のほかに筆ペンがあります。何を隠そうぼくは小学校5年のときに書道クラブに所属していました。が、それはただ単に第一希望のソフトボールクラブの抽選にもれ落胆しているところに「書道クラブはいつも早く終わるらしい」と聞いたからであり、特に書道の練習をしっかりやったことなんかありません。ぶっちゃけ字は下手です。
でもでも、お店で「本日のおすすめ」みたいなのを紙にさらさらっと書いて壁に貼ったりしますよね、あれがやりたいんです!

というわけでさっそく、ちょっと高めの筆ペンと、「一週間でみるみる筆ペンがうまくなる」みたいな本を買ってきました。うちに机はないのでPCのデスクに座り、その本を見ながら筆ペンの練習をしています。
すると、これがけっこう楽しいんです。テレビを見ながら片手間にでもできるし、いまや日常生活で板書とネタメモ以外に手書きの文字を書くことはめったにないのでなんだか新鮮です。
買ってきた参考書もなかなかよくできています。はね・はらい・止めとかの基本的な筆の送りのコツはもちろん、へんとつくりのバランスの整え方なんかの役に立つテクニックがきちんとまとまっています。縦線はしっかりで横線は細めにとか、横線は一本だけ長く書くといいとか、そういうアドバイスに従って字を書くとそれだけでなんとなく輪郭が整ってきて、メリハリのあるきれいな文字に見えてくるから不思議。本を読みながらお手本をまねて字を書いていると、ちょっとずつ自分の字が上手になってくる気がします。
メモ用紙に次々と字を書きなぐります。ついでに自分の名前なんかも書いてみます。筆ペンで字を書くコツが少しずつわかってきて、自分のクセがなくなってきて、おお最初よりも名前が上手になった。気がする。

ただ、仮にメニューを手書きで書くことがあるとしても、丁寧な楷書では書かないでしょうね。メニューなんかはちょっと崩したりかすれたりしているくらいが味があっていいじゃない。それにちょっと練習して上手になってきた気がするとはいえ、楷書が人様に見せられるレベルに達するまできちんと書道するつもりはないし。あくまで、崩すためには基本を押さえとこうかなーくらいのもんで。

というわけでメニューも練習してみよう。文字のバランスとメリハリの基本をふまえ、それでいて大胆に奔放に筆を運び・・・「本日のおすすめ」・・・・おお!なんかそれらしいぞ!!
かくして、「お品書」「本日は貸切です」「鯛のカルパッチョ」「和栗モンブラン」「地鶏ときのこの秋グラタン」「柚子胡椒でお召し上がりください」「冷やし中華始めました」「アイアム店長」「APことアッシュ・パルマンティエ(略すとHP)」などと、それらしい文句を筆ペンででたらめに書きなぐって遊びます。超楽しい。
さらには「つまづいたって いいじゃないか 人間だもの」とか何枚も書いて悦に入ったり。額に入れて下北の街頭で売ろうかなとか。

ここまで書いて、筆ペンの練習をしているのとは微妙に違うことに気づいた。
そういえばぼくは、ギターを買ったときもライターでボトルネック奏法風の音を出して楽しんでいるだけの子でした。


***


簿記とか筆ペンとかはいいから、店はどうした?という話です。

やってますよ、時間の許す限り既存の店の厨房に入って特訓しています。新しい店でのメニューは違いますが、まずは今の店のコースをこなせるようになることから始まります。
焼き鳥とか、ゆうに人間が一生に食う分は刺しましたね。といっても300本とかだけど。
最初のほうは「使い物にならん」と言われて全部おじちゃんが打ち直して使いましたが、最近ではようやく形になってきた感じ。ギリギリ店で出せるレベルにはなってきたと言えるのでは。でも作業スペースがまだ全然遅いし、おじちゃんの打つ串とは比べ物になりません。おじちゃんはこれまでゆうに東京都民の一生分くらいの焼き鳥を打っているわけで。本当はそれくらいしないと「できる」とは言っちゃいけないんだろうな。
そういえばテストと称して大根のかつら剥きをやらされたのですが、おじちゃんには「甘めにつけて10点だね」と満面の笑みで言われました。商品として使い物になるレベルではないのはわかってたが、クラスでは上手なほうだと思ってたんだけどなー。練習しないとなー。

おじちゃんは、いまは枝豆と焼き鳥と唐揚げとポテトばっかり出る店をやっているけれど、実は道場六三郎の兄弟弟子にあたり、過去にきちんと日本料理を修業した人なんです。それだけのバックグラウンドがあって、ようやく枝豆と焼き鳥と唐揚げとポテトが人様に出せるようになる、ということでしょう。
どんな仕事でも、「人の一生分の○○」の何倍もの経験を積まないとプロとしてそれを人に提供できるレベルには達さないと言えるんじゃないかなあなんて思います。一生分の焼き鳥、一生分の素振り、一生分のセックス、なんでもいいんですけど、普通の人の一生分くらいは早いうちにとうに超えて、その蓄積があって初めて一本の焼き鳥なり一本のヒットなり一回のセックスが金を取れるレベルでアウトプットできる。あ、セックスについては男の場合ね。
それはさておき、学校でちょこっと調理を学んだだけのぼくは、なにごとにおいてもまだまだ修行が足りないのです。他の人の一生分くらいはもうやったと自信を持っていえるのは、文章を書くことくらいでしょうか。それでお金が取れるほどじゃあありませんが。でも文章でも、100のバックグラウンドから10を書き、それでやっと人に1が伝わるというようなことがある気がします。料理に関しては、まだまだです。

そんな半人前のぼくですから、新しい店でもまずはホールを中心に勉強していくことになります。厨房にはおじちゃんが入ることになるようです。一般にチェーン店なんかの雇われ店長はホール長のことを指し、調理を取り仕切る人として別に「板長」とか「コック長」とかがいます。そういう意味ではぼくらの新しい店で、ぼくは文字通り雇われ店長としてスタートを切るわけです
が、いずれは厨房を任せてもらえるようになりたい。そう思いながら一本の串を打ち、一本の大根をむく日々です。


あとは店のことは・・・実はまだよくわからない部分が多いのです。

半人前の雇われ店長、意外と権限がありません。おじちゃんはぼくの意見も聞いてくれますが、あんまり主張しすぎると出すぎたことを言うなと怒られます。残念ながらメニュー関連でぼくが口をはさむ余地はまだありません。逆に内装とか看板関連とかぼくでもアイデアが出せそうなことについては、わりとおじちゃんは業者にまかせっきりにしています。これまでぼくが主張して通ったのは、電子レンジを置くことと、トイレは和式じゃなくて洋式がいいということくらいです。

あとおじちゃんの構想も、わりところころ変わります。最初は「3時間飲み放題つき3000円のコースを軸にする、他の店のコースは2時間だから3時間コースは絶対に受けるはず」と話していたのですが、いつの間にかその話は立ち消えになりました。メニューも、前菜で一つ、煮物で一つ、焼物で一つ、というふうにシンプルに絞り、全部で7品しかメニューを置かず、でもそれが常に日替わりになるという手法でいこうという話があったのですが、今日は「健康を考えてサラダを5種類くらい出したいんだけど、5つだったら何がいいかなあ」と聞かれました。この前の「二毛作営業」についても、話したばかりで早くも「やっぱり土日もサラリーマン一本に絞ろうかなあ」とも。
そんな感じで店の全体像がまだ見えてこず、またぼくが主体的に絡んでいることが修行のほかにはあんまりなくて、しょうがないので簿記とか筆ペンの話をしていたという面もある。

しかし、ちょっと表現が難しいのですが、そういう状況に不満や不安があるとかいうのとは全く違う。だっておじちゃんの店なんだからおじちゃんが納得のいくように作ればいいと思うし、それをそばで見せてもらえるだけでもぼくには超ありがたいことだし、おじちゃんにはおじちゃんの経験と実績に裏付けられた勝利の方程式があるのだし、ぼくはこれから実績と経験を積んでだんだんと自分の意見に説得力をもたせていくしかないんです。
それに、おじちゃんは、けっこうぼくに似ていると思うんです。よく言えば臨機応変、悪く言えば行き当たりばったり。百戦錬磨のおじちゃんをつかまえて行き当たりばったりというのは失礼ですが、確かに「まずはいろいろやってみてよければよし、ダメなら次を考えよう」というのが彼の基本スタンスです。
既存の2店舗を見ると、おじちゃんの考える新しい店のコンセプトの原型がいたるところに覗けます。原型というか残骸というか。「四季の味」「旬の味」「串焼き」といった、新しい店のキーワードとして彼があげている言葉は、実は既存の店の看板にもそのまんま書かれていたりします。つまりおじちゃんは昔からそういう店をやろうとしてきたんです。でもやり始めて軌道修正しているうちに、枝豆とポテトと焼き鳥を量産して若者をターゲットにする、四季もへったくれもない今のスタイルに最適化していったのでしょう。でもそれで成功しているのだから、それで正解なのです。
それにしてもその姿、何かにダブって見える・・・。なんとなく、ワカレミチのサイトの変遷に似ているのです。このサイトは立ち上げ時には「イベント」「インタビュー」「マネー」と、いろんなコーナーがありました。会社の辞めかたから企業のしかたまで、体当たりで取材してハウツー的に発信していこうという目論見で、転職支援サイト的なものにしたいというたいそうな構想がありました。しかしやっているうちに、そんなコーナーは野ざらしにされて、ただひたすら日記を書くサイトに最適化していったのはご存知のとおり。それらのコーナーはいまだに隠しページ的にこのサイトのどこかに残っていて、それがおじちゃんの店の看板の「四季の味」という言葉と同じなのです。
似ているので、なんとなくおじちゃんの考えていることがよくわかり、親しみがもてます。ぼくらは相性がいいのだと思います。あとは頑固で、自分が考えていることは絶対に曲げないところとか、自分の考えていることを話し出すととにかく長いところなんかが似ています。まるで親子です。

だから新しい店も、ぼくらは力を合わせて行き当たりばったり、想像力とスピードだけ持って飛べばいいのです。そのあとどこに落ちるかは、飛んでる間に考えればいいのです。

ただ、けっきょく今度も今の店の完全コピーに落ち着いて「四季の味」という言葉が文字通り残骸にならないようにはしたい。


***


そして店の工事。
はためには工事が進んでいるのかいないのか不安になってもしまうのですが、もちろんやってます。むしろ職人さんたちは休日返上で工事してくれています。ただこれまでは配管とか防水とか電気設備とか、縁の下的な工事をしていたので進捗がわかりづらかった。
しかしようやく、そうした水面下的な工事が終わり、具体的な骨組みを作る工事に移ってきた模様。



壁ができました。壁のむこうが厨房になります。壁ができて空間が仕切られると、とたんに店らしく見えてきます。写真は撮らなかったんですが、客席のほうもお座敷の骨組みができてきました。
今週中くらいには全体の形が決まり、それからはクロス工事やタイル工事や、店を仕上げる工程に移っていきます。

店の骨組みができて輪郭が見えてきて。動いていないようで少しずつ動いてる。Xデーは確実に近づいています。
いよいよ、あと半月。

お客様は神様ですが

2005/11/18

いまある2店舗には、ぼくも若いころそれはそれはよく通ったもので、酔っ払って大騒ぎした記憶ばかりがあります。小さい店で、ぎゅうぎゅうに(本当にぎゅうぎゅうに)詰めて40席くらい。近くの大学の学生たちが集まって、2・3グループも入ればいっぱいの店です。
カラオケがあって、そんな小さな店に2グループが入るとカラオケボックスで相席になったみたいな妙な雰囲気になるものですが、むこうのグループのカラオケにヒューパチパチ、じゃあこっちはお返しに必殺のギャランドゥをおみまいしますイェーイ、とかやってるうちに店中が妙な一体感に包まれて、朝が来るころにはみんなで合唱してすっかり仲良し、みたいな不思議な空間でした。
今でもあいかわらず同じ大学の学生たちが来ていて、そのノリは引き継がれているようですが、ところが最近では昔にはなかった客層が集まってきているようなのです。

既存店舗で厨房のトレーニングをしていて、ときおり2時間コースを2時間ぶっ続けでイッキイッキと大声で騒いで飲み続ける奇妙な集団に出会いました。出会いましたというのは正確ではなく、うなぎの寝床のような厨房からは客席の様子は一切見えず、働いていると彼らの掛け声だけが聞こえます。とにかく最初から最後までイッキイッキ。すさまじいまでのイッキ集団です。
今週から、ぼくはおじちゃんの店での研修に移りました。まずはホールから。そこでぼくは彼らの正体を知ることになります。
彼らの名は、「イベントサークル」。

最初イベントサークルと聞いたときは、ああ大学の、夏はテニスで冬はスキーみたいな、お気軽お遊びサークルみたいなやつね、と思いました。しかし、おばちゃんに話を聞いてみると、ちょっと様子は違うようです。サークルとはいっても、大学とは関係ないいろんな年齢層の若者の集まりなのです。ネットでも少し調べてみました。彼らの主目的は・・・「飲み会」。イベントとはすなわち飲み会のことで、集まってひたすらイッキイッキとやるのが彼らの活動内容なのです。
そして彼らのいでたちは・・・まるでなまはげ。みな一様にガングロ。ガンガングログロガングログロ、爆発コントのオチのようにガングロです。頭は茶髪を通り越し、粉かぶりコントのオチのように白茶けています。男も女もです。
そのような異形の者たちが集まって、2時間ぶっ続けでイッキイッキ。新しい文化だなあと口をあんぐり開けて見ていました。正確にはぼんやり見ている余裕はなく、とにかくやつらは湯水のごとく飲みまくるので次から次へとドリンクオーダーがたいへん。

見ていると、イッキのコールの今と昔がわかってなかなか興味深いです。「○○が飲むーぞ○○が飲むーぞ○○が飲むーぞー、3秒で飲むぞ、3・2・1・・・」なんてのは昔っからありましたね。
古来からあるコールに修正を加えて生き残っていると思われるものもあります。ぼくらの時代には、「ひーとつ一人ですーるーイッキをオナニーイッキと申します」「ふーたつ二人ですーるーイッキをセックスイッキと申します」に始まり「ここのつ苦しみすーるーイッキをSMイッキと申します」まで続く、要は9人で並んで酒を飲み干すという芸がありました。今ではそれが微妙に変わり、だれか二人を飲ませるときのコールに特化して「ひーとり二人で飲ーむーイッキをセックスイッキと申します」に変化しています。
かと思うと、全く聞いたこともないコールも多々。今は「おっおっおーみずはいはいおみず」とかいうコールが彼らの主流のようですが、正確に何と言っているのかおじさんにはわかりません。

しかし正直、何が楽しいんだろと思います。
年寄りくさい発言でしょうか。でも、だってあいつらずっとイッキしてるだけなんですよ。
イベントサークルというから、最初は何かのイベントの2次会とか3次会なんだと思いました。2次会ならイッキイッキもわかる。無目的に騒ぐのもよろし。

ぼくも高校生のころは、うちの学校は運動会(体育祭ではなく運動会)が盛んなところだったのですが、運動会の後の飲み会なんかでそれはそれは大騒ぎしたものです。新宿に大黒屋という安い飲み屋があって、今もあるのかなあ、そこがうちのクラスの行きつけでした。広い店なのですが、なぜだか換気扇が逆回転して排気が入り込んでくる暑くて臭い客席でした。ピッチャーで出てくる工業的な香りのする酒をたらふく飲んで、ふと気づくと別のクラスも同じ店で飲み会をやっている。すると店内で運動会第二ラウンドの始まりです。みな服を脱ぎ捨て、店内でマジ棒倒しの始まり。もちろんイッキイッキもありました。
が、それらは運動会というイベントがあってこそのバカ騒ぎ。運動会で騒ぎ、その後の飲み会で語り、3次会とかでもうどうでもよくなってイッキイッキと騒ぐわけです。

今でも客の中には大学の体育会系の合コンなんかもあり、彼らもゲームやイッキをしますが、見ていると彼らのイッキにはまだ目的がかいま見えます。とにかく「女の子を酔わそう」という目的のためにオールフォーワンアンドワンフォーオールなのです。一致団結してスクラムを組んで会の前半にゲーム&イッキ、そして後半になるととたんに静かになってマンツーマンディフェンス。いやむしろオフェンス。酔っ払った女の子へタッチダウンという崇高な目的に向かうチームプレイが感じられます。

しかしてイベントサークルの彼らは、ただ飲み会のためだけに集まっているのです。そしてその飲み会も、最初っから最後までただただイッキイッキ。だれも話なんてしていない。ひたすらゲーム→イッキのコンボです。山手線ゲームとかやります。しかも山手線ゲームのお題が「山手線の駅の名前」です。その次は「京浜東北線の駅の名前」です。楽しむためにではなく、間違えた人にイッキをさせるためだけゲームをしています。ゲームはしてても笑いなどは起きません。ひたすらイッキのコールだけが続きます。とりつかれたように飲みます。
たぶん彼らはホスト文化にあこがれているのだと思います。いでたちもそうだし、ホストのシャンパンコールのノリを模倣しようとしているのでしょう。ただ、ホストのコールがウン十万のボトルとともに起こるのとは違い、彼らは決まって2000円コースです。2500円コースは絶対に頼みません。そしてどのグループも同じコールばかり。オリジナリティはなし。なんにせよ、「みんなで集まって同じことを叫ぶ」だけの集団に、ぼくは魅力を感じません。

まあ彼らも、根は悪い人たちではなくて、2時間コースが終わって終了を告げると「お騒がせしてすいませんでした〜」なんて帰っていくやつもいる。イベントサークルなんていうからスーパーフリーみたいなのを連想して、そうやってイッキイッキ飲んだあとにお前ら乱交パーチーかと眉をひそめたくなるものですが、そういうわけでもなくただ健全に(?)飲んでいるだけみたいです。

しかし彼らが帰った後、店は荒れに荒れています。彼らにとって枝豆は、食べるものではなく投げるものです。おしぼりも、手を拭くものではなく投げるものです。箸も投げるものです。こらグラスを投げるな〜!店中しっちゃかめっちゃかで、片付けに1時間くらいかかることもあります。
1時間かけて片付いて一息ついたころに、また別のイベントサークルが入ってきたりすると、ちょっぴり悲しくなります。

彼らの不思議な生態は、実際に見てみないと理解はできないと思います。こうして日記に書いてみたのですが、彼らの不思議さの半分も表現できた気がしません。既存店舗では忙しいときに大学生のバイトを使っているのですが、あるバイト君は彼らを見てひとこと「・・・動物ですか」と言いました。みなさんもオープン後にご来店いただいて、3階にイベントサークルがいたらぜひ見てみてください。
金・土などは開店直後から夜更けまでイベントサークルで3回転なんてこともあり、大人数でやってきて確実に売り上げを落としてくれるありがたい客には違いないのですが・・・。

おじちゃん・おばちゃん・ぼくの共通する願いは「今度はイベントサークルがこない店を作ろう」というもの。
新しい店は客単価を少し高く設定し、飲み放題コースをなくすことになります。

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